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津家庭裁判所 昭和50年(少ハ)1号 決定

少年 M・S(昭三〇・一・二生)

主文

本人を昭和五〇年一二月一九日から昭和五一年六月一八日まで中等少年院に継続して収容する。

理由

(申請理由)

本人は昭和四九年一二月一九日津家庭裁判所において窃盗保護事件により中等少年院送致の保護処分を受け岐阜少年院に収容され、宮川医療少年院を経て瀬戸少年院において矯正教育を受けているものであるが、昭和五〇年一月二日満二〇歳に達し、少年院法第一一条第一項但書により収容を継続中のところ昭和五〇年一二月一八日をもつて送致後一年の期間が経過するので同日退院させなければならない予定のものである。しかし本人は昭和五〇年一〇月一日をもつてようやく累進処遇の段階が一級下に進級したに止まり、残余の収容期間中には同少年院所定の退院条件を満たし得ず、また日常生活において集団生活に求められる最少限の節度を欠き、職員の指導に素直に従わず、度重ねて反則行為を繰返すなど成人域に達したものとして軽率、未成熟さが目立ち、未だ犯罪的傾向が除去されたとは認められないので上記収容期間満了後さらに仮退院に至るまでの最上級処遇段階に達してのち二ヶ月間にわたる出院前教育期間と仮退院後の保護観察期間とを含め引続き六ヶ月間収容を継続する必要がある。

(当裁判所の判断)

よつて本件に関する調査、審判の結果に鑑み検討するに、本人は昭和四九年一二月一九日当裁判所で中等少年院送致決定を受け同月二五日岐阜少年院に収容され、昭和五〇年一月一七日鞭打ち後遺症の検査と治療のため宮川医療少年院に移送され、同年六月一六日治癒して二級上生として瀬戸少年院に移送され、同年一〇月一日一級下、昭和五一年一月一日一級上に進級して現在に至つているものであるが、少年院においては受け入れ当初からその性格問題点として指摘された諸点即ち知能的には準普通域にあるが、社会性の未熟さと視野の狭さが見られ、意思薄弱、軽率追従的で自己顕示性が強く短絡的に欲求充足を図ろうとする点、自分本位で協調性に欠け生活に対する反省的な態度が乏しく常に不平不満を抱き易い点また本人の実父が一〇年来実母の姉と不倫な関係があつてそれに対する反発などから本人自身が身を持ちくずし年齢不相応に多くの女性と不純な性的関係を結んできていることやそれに伴い「女性は快楽の対象である」などとの偏つた女性観を形成している点などを矯正するため個人的基本目標として「人から信頼される人間になること」、「素直な人間になること」及び「毎日の目標をもつた生活とその反省」の三項目を定めて院内生活において機会あるごとに内省への教育を継続してきたが本人の生活態度は概ね前記申請理由に掲げられたとおりであつて節度を欠き、少しでも楽をしようとする怠情な言動が散見され、職員の指示、指導に対しすぐ不満げな反応を示しふてくさつた顔をしたり、自己の行為を正当化しようとする態度が見られ、そのため現状の改善、将来の生活設計を主題とする話し合い指導がもたれてきたが顕著な前向き姿勢が認められず、本人の関心の中心は相変らず女性問題であり、しかも前記のような不健全な女性観はいまだに捨て切れないもののように窺われ、より基本的な問題である地についた生活計画を持ち、それに沿つた言動をするといつた点への関心ないしは反省が乏しかつたこと、在院中最近まで数回にわたつて反則行為が見られそのため進級が遅れ、前記のとおりようやく昭和五一年一月一日最上級処遇段階である一級上に進級したものの所定の出院前教育を施すにはさらに二ヶ月間の時間的余裕を要し、しかも次に触れるとおり本人の家庭について調整を要する点もあると思われることから仮退院後の保護観察を相当とすべく、この期間をも見込んでおく必要があること、一方本人自身はようやく最近に至つて自分のこれまでの我儘や身勝手な振舞いにつき反省の気持が見られるようになり或程度の忍耐力がついてきたものと認められるが、本人の父と伯母との間の関係は現在もまだ改善されておらず、それに対する反発が一因となつて本人が非行に傾斜した経過をも考えると本件記録中保護観察所の作成にかかる環境追報告書中本人が帰住するまでには右関係を皆無にしたいとある点はその努力に期待するとしても本人自身及び父親につき共に若干の懸念を残さざるをえない点であつて、とりわけ本人が家庭に復帰後は父親と共に同一職場に稼働することを予定している本件にあつてはそのことに留意する必要があると思われること、しかしながら父母、弟らの家族は本人に対し悪感情を持つておらず、これまでの面会や交信を通じて受容れ態勢そのものは比較的良好といえる状態になつていること、以上のような事情を認めることができ、これらを綜合して考えると本人の犯罪的傾向はいまだ充分矯正されているとはいえずこれがために出院前教育の所定の課程を修了させることに要する期間並びに出院後本人の性行改善及び家庭調整につき相当の保護観察の期間を要するべく、これらを合せて送致後一年の期限をこえさらに引続き六ヶ月程度を限度として本人を中等少年院に継続して収容することもまたやむをえないものというべきである。

よつて本件申請を理由があるものとして認容し、少年院法第一一条第四項を適用して主文のとおり決定する。

(裁判官 上本公康)

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